闇の帝王 吸血鬼ドラキュラ

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以前、日記に「東映版シルバーサーファー」について書いたところマイミクの方から、1980年頃東映とマーベル繋がりで「闇の帝王吸血鬼ドラキュラ」というマーベルコミックの「Tomb Of Dracula」を元にしたアニメが放送されていた、との情報を頂きました。
この作品の存在は全く知りませんでしたが、「シルバーサーファー」や「3Dマン」と違い、実際に製作された作品なので、ある程度ネットで情報収集ができるだろうと思っていました。しかしこの件に関しては思いのほか資料が少なく、ネットオークションで関連雑誌(といっても当時のアニメ雑誌でわずかな記事のみ掲載)等を入手し、どうにか記事にできる形になりました。

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この記事をエントリーするにあたりオークションで入手した雑誌など。
左より『東映TVアニメ主題歌大全集1963~1975』(2002年、東映ビデオ)、『アニメNOW 1982年アニメーション年鑑』(杉山卓、1982年、集英社)、『月刊OUT 9月号』(1980年、みのり書房)、『ジ・アニメ 8月号』(1980年、近代映画社)。





夏休みテレビアニメスペシャル
【闇の帝王 吸血鬼ドラキュラ 】


特撮番組に翳りが見え始めた1970年代後半からは、それにとって代わる様に「宇宙戦艦ヤマト」を筆頭とした空前のアニメブームが始まり、一般のアニメは勿論ですが、独自に企画、製作されたスペシャルアニメ番組が何本もゴールデンタイムを中心に放送されるようになりました。この「闇の帝王吸血鬼ドラキュラ」もそのブームの最中に放送された作品の一つです。

キー局:テレビ朝日
製作:東映動画
放送時期:1980年8月19日 
放送時間:火曜 19時~20時54分
形式:94分 1話完結

あらすじ
ボストンのある教会で「黒ミサの儀式」が行なわれていた時、突如ドラキュラが乱入して、悪魔の生贄に捧げるはずであった娘・ドミニを奪い去る。隠れ家にドミニを連れ帰ったドラキュラはドミニの生き血を吸おうとするが彼女を愛してしまった為に彼女の血を吸うことができなくなってしまった。
人間の心が蘇ったドラキュラはドミニと結婚して男の子・イエナスを授かる。
黒ミサの司祭ルペスキーはドミニがドラキュラと結婚したことに怒り、二人を襲う。しかしルペスキーの放った銃の弾丸は幼いイエナスの胸を突き、あえなくイエナスは死んでしまった。
我が子を殺されたドラキュラは怒り狂い、狂暴な本性に戻り、ボストンの人々を夜毎に襲った。
かつて父親をドラキュラに殺されたことのある老人クインシーは、拳法の達人フランク、クロスボウの使い手レイチェルらと共にバンパイヤ・ハンターを結成し復讐に燃える。
一方、ドミニがイエナスの墓前で悲嘆にくれ、自らの命を絶とうとした時に奇跡が起こった。金色の光の中、土中の棺が空に上がると天空から高貴な青年が舞い降りイエナスと一体化した。
イエナスが成人の姿となり生き返ったのだ。しかしイエナスには神によりドラキュラを倒す使命が与えられていた。
皮肉な運命に涙するドミニであったが、ドラキュラとイエナスの父子対決を止めることはできなかった。
闇の帝王ドラキュラと神の使者イエナスをはじめ、ドラキュラを憎むバンパイヤハンターの活躍、さらにはドラキュラの娘ライラス、地獄のサタン大王も加わり壮絶な戦いが展開される・・・。



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●OPクレジットより

企画:小泉美明(テレビ朝日)、旗野義文、鈴木武幸
原作:マーベル・コミックス「ドラキュラの墓(The Tomb Of Dracula)」
クリエイティブ・コンサルタント:ジーン・ペルク
脚本:山崎忠昭
音楽:横山菁児
演奏:トランシルバニア・バロック・アンサンブル(コロムビア・レコード)
美術:秦秀信
キャラクターデザイン・作画監督:我妻宏
演出:岡崎稔
制作:テレビ朝日、東映


●EDクレジットより

製作担当:菅原吉郎
【声の出演】

ドラキュラ:内海賢二
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               (画像は『ジ・アニメ』参照。以下同様)

ドミニ:鈴木弘子
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イエナス:曽我部和行
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クインシー:久松保夫
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レイチェル:小山茉美
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フランク:野田圭一
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サタン大王:柴田秀勝

ライラス:桂玲子
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ルペスキー:滝口順平
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ナレーター:石原良

原画:鈴木康彦、山本福雄、富永貞義、小野順三、飯山嘉昌、多田康之、飯野皓、野崎恒中、津野二朗
動画チェッカー:端名貴勇
動画:清野浩美、池田美雪、斉木美恵子、本間典子、南友子、斉藤純一郎、鈴木弥生、高実子とみ子、斉藤靖子、佐藤恭子、豊島有三、茂木久美子
背景:松本健治、石垣好春、野崎俊郎、松本邦子、襟立智子、沢田隆夫、有川智子、山崎由美子
ゼログラフ:茂木明子
トレース:前田峰子
彩色:高橋達雄
特殊効果:中島正之
仕上検査:塚田劭
美術進行:鳥本武
仕上進行:平賀豊彦
記録:竹沢裕美子
演出助手:永丘昭典
製作進行:鶴見和一
撮影:白井久男
編集:田中修
録音:神原広巳
音響効果:イシダサウンド
現像:東映化学
参考:「悪魔の書」日夏響 訳(大陸書房 刊)


●声の出演追加 (『アニメNOW』掲載分)
ヤングA:曽我部和行
マスター:柴田秀勝
シルバー:桂玲子
ウイラー、ヤングC:戸谷公次
ボーイフレンド、ヤングB:佐藤正治
カーリー、マイサ、女A:中野聖子
アントン、女B:間嶋里美
トーゴ、アナウンサー:田中康郎



OPにクレジットされているジーン・ペルク(Gene Pelc)氏については「アメリカンコミックス ポスターライブラリー」(1978年、徳間書店)や「アメリカン・コミックス大全」(2005年、晶文社)などでも多少触れられていますが、2005年に発売された「スパイダーマンDVD-BOX」(東映ビデオ)の解説本で、彼が東映とマーベルとの橋渡し役としていかに貢献したかが吉川進、平山亨両氏のインタビュー記事の中に詳しく書かれています。

【吉川進インタビュー記事抜粋】
70年代後半、東映の当時のテレビ事業部長・渡邊亮徳は、それまでの石ノ森キャラとは別に、新しく違ったルートでのキャラクター発掘を目指していた。その時たまたまマーベルジャパン総支配人のジーン・ペルクがあちこちで「スパイダーマン」などのマーベルキャラの日本語版を売り込んでいた。
しかし東映は出版社ではないので、マーベルのキャラクターの映像権が欲しかった。
ペルクは「そういう話ならキャラクターの映像化権を東映さんと契約しましょう」
とマーベルキャラクターの3年間の独占契約を結んだ。

【平山亨インタビュー記事抜粋】
海外の会社との契約には権利のことだ何だと大変で、キャラクターのデザインを少しでも変えたりするとクレームが付いたりするのだが、ペルクは細かい注文を全然つけなかった。
スパイダーマンの成功はペルクの功績が大きい。


光文社のマーベルコミックス・シリーズの版権が東映経由で取られたのも、恐らくこの「3年契約」の時にペルク氏が一緒に売り込んだ為だと思われます。
ところで余談になりますが、スパイダーマンにロボットが出ることを後で知ったマーベル側はこれに激怒した、という〝都市伝説〟のようなものがあります。しかしペルク氏が間に入り東映側の設定を全て理解し承諾しているのでこれは間違いではないかと思います。(ちなみに御大スタン・リーもスパイダーアクションと共にロボットの存在には好感触でした)

ただこれと勘違いしそうな話が、「アメリカン・コミックス大全」の中に書かれています。
それはマーベルのライターが東映のキャラクターをコミックス化する際に、「ショーグン・ウォーリア」の企画ストーリーを聞いて、
「なんだ、それは! ストーリーはまるでないじゃないか。ロボットが別のロボットと戦う。その繰り返しだ」
と憤慨し、話を聞くのを途中でやめたそうです。
恐らくこの時のやり取りが「スパイダーマン」と摩り替わったのではないでしょうか。


(※)吉川進のインタビュー記事の中では、企画者でクレジットされている籏野義文氏(当時東映動画プロデューサー)についても、
「英語がペラペラで、原作者のスタン・リーが来日した時は通訳し、マーベルとの折衝も矢面にたってやってくれたようだ」
と記載されています。

「ジ・アニメ」の特集記事で、〝主題歌には、先頃「地球へ・・・」のコンテストで優勝した山野里子(本名)さんを早速起用します〟 とありましたが、オープニング、エンディング曲ともにインストゥルメンタルで歌詞はありませんでした。
ただしエンディング曲の途中で〝ラララ~〟というヴォカリーズが入ります。このヴォカリーズを担当したのが山野さんではないかと思われます(クレジットはありません)。
山野さと子としてのデビューが1980年9月1日よりスタートした『ハーイ!生徒諸君』の主題歌なので、8月19日に放送されたこの曲は、それよりもひと足早いお披露目となったわけです。



なお同アニメは、1983年アメリカのケーブルテレビ「Harmony Gold」でも放送されています。
イタリアでは最近DVD化されたらしく、YouTubeに動画がUPされています。
しかし日本では再放送が1回されたのみで、DVD化は勿論ビデオ化もされていません。
マーベルに興味のある人をはじめ、アニメ、ドラキュラ好きな人ににとってもこの作品がこのまま埋もれてしまうにはあまりにも残念です。
是非DVD化を希望します。




■補記1 ドラキュラ プロフィール(原作)
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ドラキュラは1430年、東ヨーロッパにあるトランシルヴァニア(現在のルーマニア)の貴族の2番目の息子としてとして生まれる。やがて王子となったドラキュラは国を守るために敵を次々に残酷なやりかたで倒していった。トランシルヴァニアの英雄となったがやがて敵の刃にかかり死亡する。しかし兵士としての怨念が彼を生き返らせ、不死身の身体と、バンパイヤとしての能力を持たせ、人間の生き血を吸わねばならない吸血鬼ドラキュラとなった。

Real Name:Vlad Tepes Dracula(ヴラド・ツェペシュ・ドラキュラ)
Height:6'5"(196センチ)
Weight:220lbs.(98キロ)
Eyes:Red
Hair:Black

●First Appearance
1972年、マーベルコミックがリリースしたスリラーコミックシリーズのひとつ「Tomb Of Dracula #1」で初登場。同コミックは1979年8月まで続き、全部で70冊刊行されました。
第10号ではバンパイヤハンター・ブレイドが初登場しています。
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                「Tomb Of Dracula #1」(1972年4月号)




■補記2 フィギュア等
ドラキュラのフィギュアが登場したのは実は最近で、2006年に発売されたマーベルレジェンド「モンスター ギフトパック」の中に含まれていました。可動箇所が35もあり、顔もコミックの特徴をよく捉えていて、思いのほか良く出来ています。ボディはマーベルレジェンド・ギャラクタスシリーズのプロフェッサーX(2005年)のものを流用。ヘッド、手先部分、マント、ベストは新造です。
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                  Marvel Legends Monsters


スタチューは2007年5月にダイアモンドセレクトから発売されました。
限定数1000体。
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                    Tomb Of Dracula Statue

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